メディアを通じて広まる

 官製ワーキングプアという用語は、私の知るかぎり、当時朝日新聞記者だった竹信三恵子さんが、2007年7月に掲載された地方自治体の臨時・非常勤職員をめぐる記事ではじめて使ったものです。実情を見事に言い当てたこの用語は、その後、多くの方々に使われ、広まり、私たちの研究会の名称にもなりました。

官製ワーキングプアとは

 官製ワーキングプアとは、「働く貧困層」といわれるワーキングプアに、「官製」をくっつけたものです。ワーキングプアという用語そのものは、もともとはアメリカで広がっていた事態を表すもので、日本では、2006年7月に、NHKが「ワーキングプア 働いても働いても豊かになれない」を放映して以降、その番組の衝撃性ともあいまって広まっていきました。その番組の中でNHKはワーキングプアを「働いているのに生活保護水準以下という人」を指す言葉として使い、全国で400万世帯以上いるとしていました。

「官製」ってなに?

 では、くっつけられた「官製」ってなんでしょう。それを考えていくと、国や自治体がどこにワーキングプアを作っているのかがわかります。
 公共サービスは、自治体が実施するものと自治体が調達するものに区分されます。
 自治体が実施する公共サービスは、自治体が正規公務員と非正規公務員を雇って直接実施する直営サービスと、民間事業者、公社・事業団、第3セクター、NPOなどに自治体の業務を委託し、請け負わせ、又は一定の事業に対し補助金や事業費を給付するというサービスとに区分されます。
 一方、自治体が調達する公共サービスは、公共工事や製造等のように市場から技術等を購入するものと、物品そのものを購入するものとに区分されます。
 業務委託請負や公共工事請負には共通点があって、多くの場合、自治体は(競争・指名)入札等を通じて、実施者を決定(落札者)し、自治体と落札者は契約を締結し、委託金や工事代金が支払われるのです。

ワーキングプアの水準とは?

 問題は、このような多様な形態で提供される公共サービスに従事する者がワーキングプア層であることです。  たとえば臨時・非常勤職員の報酬は、ワーキングプア層のボーダーラインといわれる年収200万円に達しているでしょうか。1日8時間、週5日、52週にわたり休みなく働いて年収200万円に達するには、最低でも時給962円が必要です。多くの臨時・非常勤職員の時給単価はこの水準に達していません。
 委託請負業者や指定管理者で働く労働者も同様です。そこで働く労働者の多くは非正規労働者で賃金が低いのです。例えば某市立図書館の委託事業者に勤務する図書館員の時給は840円で、これは法定最低賃金+4円という水準なのです。委託事業者がそれほど儲けているわけではなく、入札の結果とはいえ、某市から支払われる委託料が低すぎるのです。
 つまり臨時・非常勤職員の場合は直接に、委託事業者の労働者に関しては間接的に、まさに公共サービスの実施者であり、発注者である国や自治体がワーキングプアを作っている。だから「官製ワーキングプア」なのです。
(上林 陽治/かんばやし ようじ)
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